蛙は帰る
ブライアン

午後6時、早々に暗くなった道を
蛙は横断する。
警戒するヘッドライトはまだ十分な距離がある。

1918年、食用に連れてこられた
彼らの祖先は、食べられることよりも、
食べることにその力を発揮する。
2006年、特定外来種に認定される栄誉を得たが、
彼らがそれを喜んでいるそぶりはない。


闇に響く低い声は、
巨大な夜の主の出現を暗示する。
輪郭が完全に失われると、
地を這うような声は、反響と共鳴を繰り返し
発せられた場所を失う。

-共鳴を聞き取り、反響を語る-

再び、その声が蛙の元に戻ったのは、
十分な距離と思われた車のヘッドライト、
1769年に発明されて以後、数々の死傷者を出し続けてきた
文明のシンボル。諸刃の剣たる車のヘッドライトが
蛙の姿を照らしたときだった。

-声は自分自身のものとなる-

銀河の闇、
1億個の太陽を吸い込む主は、
それでも飽き足らず、自らも一緒に
その闇へと吸い込む。

-反響は存在を反転させる-

メビウスの環を歩くようにして、
蛙は再び自らの声を手にする。
光に照らされた蛙は、蛙にしては大きいかもしれないが、
車にしてはあまりにも小さすぎる。
後ろ足2本の筋肉は緊張する。
飛ぶ方向を間違えるなよ、と。

深海。光の届かない、
母なる胎内。
生物は変態を繰り返してきたが、
彼らが変態するには、人類の命は短すぎる。
盛者必衰の理,
陸へあがることを拒んだシーラカンス。

蛙は、水中へと帰る。
人工的に作られた、コンクリート製の川の中へ。

車は通り過ぎる。
食用蛙の声は、再び闇にまぎれる。
反響と共鳴を繰り返し、
声は、一つになる。
-声が完全にとらえるのだ-。



自由詩 蛙は帰る Copyright ブライアン 2009-09-19 22:41:14
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