野締め
北村 守通

がたがたになった
コンクリートに
濁った赤が染みこんでいく
粘度は高く
糸をひいている
海水で洗い流す
呼吸できずに
目を白黒させている
有機物が
外装を傷つけながら
外装をはがしながら
各種機関に送られるべき
供給を止められて
活動は弱まるべきなのに
なお一層激しく
爆発を繰り返す

  最初にまず
  光をもとに
  外部を認識する
  機関が活動を停止しているように思われる
  
海水で洗い流す
海面が
非常に微小な範囲で
赤い色がつき
沈んでいく
赤は
ある深さに達すると
黒として認識されると聞いているが
それを確かめる前に
かきけされて
判別できなくなる

海水で洗い流す
寄せ餌に使った
蚕の蛹の粉末が
これはしばらく海面を浮遊しているが
やはり
重力には逆らえずに
ゆっくりゆっくり
散り散りになりながら
各々の場所へと
沈んでいく
どこに沈んでいったのか
確かめる術はない
お互いに
さよならをしたのかは
定かではない

海水で洗い流す
粉まみれになった手を
洗い流す
先ほどの
有機物の外装をコーティングしていた
粘度の高い液体は
離すことを
なかなか許さない
視覚では判断できなくとも
なかなか
しぶとく
しがみついている
その
一粒一粒が
活動を停止していき
循環が止まってしまったため
老廃物が
排泄されずに溜まっていく
手のひらの中で
老廃物が溜まっていく
活動が停止する

  有機物は
  最後に
  一際強く
  がたがたになった
  コンクリートに
  尾びれを叩きつける
  コンクリートは
  また
  極めて微小な範囲で
  破損する

動かなくなった
有機物に
もう一度
ナイフを入れてみる
先ほどまでの
力強い
弾力感は得られない
まだ
完全には活動を停止していない箇所もあるのだろうが
それらは
彼ら全体を動かすにはもう不十分であった
私は
使い古しのビニール袋に
それらの集合体を仕舞いこみ
呑まれつつある防波堤をあとにした

  集まっていた蟹が
  さっと散り
  各々が
  海中に逃げ込んでいった



自由詩 野締め Copyright 北村 守通 2009-09-19 03:45:46
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