夕闇の暮れる、その前に ー祖母の墓前にてー
服部 剛
無人の霊園に吹き抜ける
夕暮れの風を頬に受けて
墓石の下に隠れた祖母に
両手を、合わせる。
背後を振り返り
見渡す故郷の山々に
あの頃よりも増えた家々は埋もれ
風景の真中に建つ
白い母校のベランダから
吹き鳴らす
ブラスバンドのトランペットは
あの頃と変わらぬ音色で
染まりゆく夕空に、響き渡り
先ほど下りてきた
曲がりくねった通学路の坂で
懐かしい友と野球をした
団地の庭も高い敷居に囲まれて
すっかり廃墟になっていた
已
(
や
)
むに
已
(
や
)
まれぬ哀愁に
消えてしまった友の姿に
今にも潰れそうな胸を抱えて
婆ちゃん、この墓場まで
俺は歩いて来たんだよ
三途の川を渡る前
何処かへ吸い込まれそうな渦の中から
必死で僕の名を呼んだ
あの朝から
もう半年以上の月日は過ぎて
そうしてあらゆるもの達は
風景の中へ溶け去ってゆくのです
夏空に、蝉が鳴いては地に、堕ちて
秋の夜の、草の隙間に、すずは鳴り
それらの季節を通り過ぎては
詩人なんぞを志し
ぶらぶらしているこの俺も
そろそろ
ひとすじに胸を焼く
一輪の花に、逢いに往きたい
夕闇が暮れきってしまう、その前に。
祖母の遺骨の隠れた墓前にて
そっと両手を合わせる、いのりよ
揺らめく細い糸となり
暮れなずむ夕空へ、昇れ。
自由詩
夕闇の暮れる、その前に ー祖母の墓前にてー
Copyright
服部 剛
2009-09-17 20:22:40
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