限りある世界で嫉妬する
渡邉建志




竹上泉論、頼まれもしないのに、読まれもしないのに





      西へ           竹上泉(2001年)
           




      幼さの残る顔は
      痣だらけで 
      髪が汚く
      顔や首にはりついていた


      そうか
      お前は美しい


      緋の着物の帯が
      千切れ
      足元まで
      垂れ下がっていた


      そうかお前は西へ


      西へ

      ゆくのか




++

風がびゅうびゅう


襤褸をまとった子供が突っ立っている。
ざらざらとした、いかにも竹上好みの世界を、
無表情のまま、子供は西へ歩いて行く。
そこは、傷つきやすい繊細な心、という世界ではもうない。
ざらざらと通り過ぎている。
何しろ彼は西へ行く。仏になろうと。
殺伐とした世界を。

「そうか」というだけの彼は動かない。動かないで見ている。
見ながら「西へ ゆくのか」とだけ言っている。感心している。感嘆している。
だけである。
主人公の動かなさ/動けなさ、あるいは主人公がただひたすら開いた眼であること、
そこにこそ、いつも、竹上的世界の驚くほどの美しさがある。
黒い黒い黒い目で、いつも川の向こうを見ているこの人のあり方を
私はとてもいいなと思う。

閉じられた盆地の空の下で、
川の向こうには虚無しかない。



++ 



      こいのぼり    竹上泉(2001年)






      昨日
      男の子の死んだ家に
      こいのぼりが上がっていた
      私はそれが空に翻るのを見た
      五月











++

またしても男の子が死んでいるなか、一瞬のシャッターを切る音が聞こえる。
竹上は目の人だと思う。そして彼女は瞼でシャッターを切る。
そして一瞬を切り取る。その一瞬の前も後ろも死だ。
鳩が空を横切る瞬間、シャッターを切る。
切った瞬間の沈黙は永遠に続く。
そこに彼女はいない。
いないのに切実にいる。
明日にも自殺しそうな切実さで。
投げやりなほどのスピードで、
彼女も言葉も駆け抜ける、
前も後ろも死の、その一瞬に。














+ +










君が手打ちしただろう<hr>タグのこと、
いかに君がそれを打ったかについて考える


   鳩の真下を眺める


   限りある世界で嫉妬する



というだけの言葉を置いて、自己紹介にもならない自己紹介とする。
置いただけ。
それで何が悪いんだろう。僕が目指しているのはまさにそこだ。
そこに墓標があるように、
その空間にそのフレーズしかない。


限りある世界で嫉妬する。




散文(批評随筆小説等) 限りある世界で嫉妬する Copyright 渡邉建志 2009-09-15 00:20:05
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