「環境限界」
月乃助



きりとる窓の
昨日は堕ちて、今日へ辿り着く
限りある空をつかむ 手のひらに押し上げれば 
さやかなる 密な水にみたされた聖域のむろ
消毒液の洗礼に息づく朝が やってくる

這い回る とがった眠りは、いつのまにか
はりつめた先から 爪のようにゆっくりと伸び
ありうべき指の重さをなくした 圧迫から解き放たれ
あまたな薬に弛緩する

脳を無くした海豚のように泳ぎ始める 黎明に
わずかな安楽の 休みに留め入る
何をも生産せず
何をも思考しない 
何をするも 許されることのない 重ねる
かっちりとめぐりくる 夏のあさ

そぞろに 椅子を車に群れ集い
老女たちに 舞い降りる看護婦の 歌姫のささやき
ゆっくりと姿をなして 小さな環に踊り騒ぐ協奏
そのかたい体の 狭められた動きも せつな
病み 老醜さえもまた ただ静謐に美しくあるという
みまがうことのない 真理

生きつづけるという 引力や惑星の自転ほどに完全な、
自然調和の中にあって
環境限界の治癒の世界に 棲む わたし







自由詩 「環境限界」 Copyright 月乃助 2009-09-14 14:32:31
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