アザレアと僕
蓮沼 栞








昔から、白い湖にはアンボビウムが咲いていた。

空を見ると黒い雨が降り、遠くをのぞむと、赤い丘に白い雨が降っていた。そっちには行きたくなかった。
赤と白が交ざり、巨大なイチゴ味の氷にコンデンスミルクをトッピングしたみたいに気味が悪かった。

僕の家は、僕の好きな白い木の屋根をしていた。

空を見てしまうと大好きな白い屋根が真っ黒になるから、あまり見たくないのに、蒼い空に戻ってるかもしれないって癖の様に見てしまう。

毎日の様に大好きな白が、黒い液体に浸蝕されるのを見て、いつのまにか僕はおかしくなってしまった。

外に出ると吐き気がした。
意味のわからない頭痛がして、息が上手くできなくなった。

心臓の速度は増すのばかりなのに、心は死へと向かっていた。





ある日、庭にアザレアが一輪咲いた。

どこから来たのか、どこへ向かうのか。しかしアザレアは確かにそこに咲いていた。
毎日、朝に目が覚めると小さな窓からアザレアを見た。少し高い所にある窓は、アザレアを見るにはあまりにも不憫で、僕はいつも顔をガラスにへばり付けながら、有り得ない角度に頭を傾けて見るしかなかった。

窓の下に椅子を置いた。
部屋の中にある唯一の椅子を、アザレアを見る為に捧げた。
椅子の上に立つと、アザレアがよく見えた。
よく見ると、花びらの先はビンク色に染まっていて、僕の視線を感じ、恥ずかしがって、顔を赤らめている様に見えた。





アザレアが咲いて14回、月が地球の裏側へ旅をしに行って、どこかに遊びに行っていた太陽が帰ってきた時、

僕は扉を開けて青空を眺めていた。


やっと来てくれた。

アザレアが言って、


ありがとうと僕は言った。


自由詩 アザレアと僕 Copyright 蓮沼 栞 2009-09-10 02:13:04
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