スタジアムの夢
月乃助

力のかぎり追いかけるのは、
自分の力をしんじているかのように
止まることをも知らず
一点に集中した想いのはてなのです

おしもどす秋の風に
それが、遠くにあることなど知らずに
駆け抜ける 空と四角い表面の緑色にはさまれ
浮き立つような鮮やかな赤に黄に染まる小さな姿

陽を陰る スタジアムに列をなす観客の
まだら模様の歓声が、風を押し切り
はためく国旗の垂直に降りてくる影にも
とまどいもしない
子供たちが追いかけるのは、ボールなどでなく
夢でした

たったひとりの子さえも
みまがうことなく追いかけるそれは、
ひととき黒白のボールになって飛び交いますが、
あるものは、息をきらして駆け続け 手にし
あるものは、休み なみだをながして あきらめるのです

スタジアムはそれをみながら
終わることのない 優しいねぎらいの風の音をかけ、
小さな選手達の姿を見続け
年老いたそれは、おなじほどに旧い町の 
数限りない幼い選手たちを心にとどめ
そのひとりだに、忘れることはないのです

それがために、
どんなに 風の冷たい日にでも おとなになり
ここにたった子供たちが、スタジアムに戻ってくれば
思い出という、子供時代の温かな懐かしさを手にし
老いた彼の腕のなかに、追いかけた夢を
いまいちど見ることができるのです

変わらずに ピッチをはしる
やんちゃな 今よりはるかに元気な
自らの姿を そこに
垣間見ながら




自由詩 スタジアムの夢 Copyright 月乃助 2009-09-08 13:46:13
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