夕化粧
あ。

橙色に照らされた木造二階建てのアパート
蹴飛ばせば簡単に壊れてしまいそうな垣根から
紅色の白粉花がその艶やかな顔を出す


やがて来る闇に飲み込まれてしまう前に
黒くて固い種子をてのひらに乗せる
親指の爪をきゅっと強く押し当てると
潔く割れてしまった中から白い粉がこぼれる


白粉花の別名は夕化粧という
まだ化粧など知らない子どもの頃
母親の真似をして種子から取り出した白粉をはたき
あでやかな花を潰して汁を唇に引こうとした


結局花の汁は瑞々しすぎて唇を染めることは出来ず
それでも何か大人らしい格好をつけたくて
親指の爪にぎゅうっと無理やりに押し付けてみる


爪の先にはさっき種子を割ったときに付いた黒い皮
さかむけの傷に汁が染みてつうんと痛む
美しくするのも楽じゃないと何となく思い


この澄まして咲いている紅色も
本当は色々苦労しているのかもしれないな


なんて



自由詩 夕化粧 Copyright あ。 2009-09-03 20:52:41
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