台風一家
カナシミルク

―台風が通りを真っ直ぐに染め上げる
 今日起こったことはもう昨日に飛ばされて今日じゃなかったみたい

すこしずつ記憶が混濁し始める
それぞれのわたし いくつかのわたしの死
分裂して ひとの中に入ったわたしが膨らんで分裂して
分裂して 飛ばされてわたしの中のわたしを求めて
分裂して さまよっているわたしたちの死

風がわたしたちの亡霊を集めて遠くの空へ運ぶ
引き連れられたわたしたちの微笑みがすこし自由にカタンと音をたてる
そのとたんに崩れる背景の白さ!

落ちていく影を覗いていたやつ等は
私の子供のような顔をしていた

さい せい さん せよ さい せい さん せよ

風の花に埋もれて葬られたいのはわたしだけだろうか
吸いこむ空気の清浄を望むひとよ

地上で迷い込んだ短い路地の突き当たりに鳥篭が一つ
家の灯りは温かく平らな箱の上に
ロング スウィート ホーム 三語だけの嗚咽を照らす
風が連れて行ったのは鳥篭の中の鳥とからたちの苗木
おじいちゃんの自転車のかご 母を迎えにいった弟
と僕のサッカーボール 五つだけ あぁ
蒼さよ 循環の一切を止めて歩かせて欲しい
何度も生まれる私の家族を見届けるだけの歩みを

私のかわいい孤独よ
切り離された台風の欠片を捕まえて愛し合おう
明日が明日だけで終わってしまうように


自由詩 台風一家 Copyright カナシミルク 2009-09-01 02:09:52
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