円環のひと
恋月 ぴの

そそくさと去り行く夏の記憶を確かめようと
深緑色に澱むお堀ばたを訪れてみた

色とりどりのウエアでストレッチに余念の無い肢体は眩しく
人恋しさを見透かされてしまうようで
遠慮がちにちょっと離れた日陰のベンチへ腰掛ける

今ごろならヒグラシなんだろうけど

あいにくの蒸し暑さが蝉の鳴き声さえも遮ってしまったのか
湿っぽいベンチから見上げる空には雲ひとつ見えなくて
幼い子供たちの歓声に伏せ目がちな視線を上げた

内堀通りを挟んで向かい側にはイギリス大使館
千鳥ヶ淵公園の片隅に設えられた児童公園の小さなプールには
疑うことを未だ知らぬ屈託のない笑顔

昔ながらの浮き袋を腰に回し、ママ!、ママァ!と叫んでいた

わたしだけをみてみてってところだよね

木陰ではお母さんが手馴れた様子で我が娘の局部を摘むと
つるんとした割れ目から虹でも架けるような勢いでお小水が飛んだ

私もあんな感じで母におしっこさせてもらっていたのかなぁ

子育てって誰かに押し付けられた義務なわけでもなさそうだし
なんなんだろうね

独り身の気楽さがやっぱ私は好きなんだと
意地っ張りな赤とんぼになったつもりで夏の記憶に手を振った





自由詩 円環のひと Copyright 恋月 ぴの 2009-08-25 18:12:05
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