薄荷
ゴースト(無月野青馬)

「出ておいで、準備が出来たから」
満月。午前三時。公園。
魔神の子が遊ぶ為のジャングルジムの下
魔法陣の真ん中で花束を踏みにじれば、目蓋のようにドアが開く


右手の爪。左手の爪。
自ら捧げ、赤身の部位を晒した少年
家の物置に
日中の間は魔神の子を住まわせたいと密かに願う


午前三時。
公園に、
魔神の子、魔界の少女がひっそりと降り立つ
ドアが閉められてしまうまでは遊んでいられる


「ルルルル・・・」


二人
公園を離れて線路の上を伝い歩きながら、他愛のない話で笑い合う
「昨日は物置を整理したよ」とか
「猫を殺したよ」とか
「明日はいよいよパパを燃やすよ」とか
少年が饒舌になる
魔界の少女はニコニコしながら少年の話を聞いている


少年は魔神の子の口元から時折零れる欠片を舐めるのがとても好き


「君の見てきた事を教えてよ」
「僕がいつか歌にするから」
少年は魔界の少女に思いを打ち明け、青白い顔で笑ってみせる


ドアが閉まるリミットの明け方が迫る
二人はジャングルジムへ戻る
魔界の少女は
ジャングルジムを見てしまうとまだ遊びたいと目で訴える
公園の隅では
踏みにじられた白百合が
100年放置されていたかのように干からびている

「ルルルル・・・」


微かに香る
魔界の薄荷の澄んだ匂い
どんな記録にも映像にも残っていない甘い匂い
悪意の無い澄んだ匂い
僕の方が悪党だったと
少年は内省を繰り返す
匂いは薄れ
ドアが開かれることはない






自由詩 薄荷 Copyright ゴースト(無月野青馬) 2009-08-22 21:06:57
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