四行詩四態 <2>
nonya
「見」
見ているのに見えていない
僕の眼はたいてい当てにならない
1秒先の出口も1cm後ろの奈落さえ
感情の濃霧に包まれたら何も見えない
「嗅」
疲れた鞄の匂いはぶきっちょな父の照れ笑い
蒸れた畳の匂いはしょっぱい母の小言
濡れた傘の匂いはちっちゃな祖母の背中
萎れた花の匂いはうっすらと誰かの横顔
「聞」
19Hzの君の溜息は聞こえない
21KHzの君の叫びは聞こえない
鼓膜を震わせる生温い言霊は
うずまき管を手なずけ大脳を居眠りさせる
「触」
触れた夏は掌が忘れない
交わした言葉が色褪せても
掌紋の丘に一度咲いた花は
決して枯れることはない