撃沈。
敬語
あぁ、沈んでいく。
沈んでいく。
太平洋よりも深く、
大西洋よりも深く、
インド洋よりも深く、
日本海よりも深く、
他のどの海よりも深い水溜まりに、
僕は沈んでいく。
あぁ。もう海面からの光は届かない。
あぁ、沈んでいく。
沈んでいく。
やはり、まだ無理だったのだ。
僕に大海はまだ早過ぎたのだ。
まさに井の中の蛙。
そんな狭き海で自惚れていた僕にはわからなかった。
井と大海の違いも。大海の恐ろしさも。何もかも。
所詮、淡水でしか泳いだことのない僕が鹹水で泳げるはずがなかったのだ。
だから、だから沈んでいく。
あぁ。もう海面からの音も届かない。
あぁ、沈んでいく。
沈んでいく。
後悔と失望感が空気と共に肺から飛び出した。
そして、そのまま勢いよく海面を目指して駆け上がっていく。
お願いだ。
僕も海面まで連れて行ってくれ。
僕は井の中に帰りたい。淡水に帰りたいんだ。
もう大海なんかに来たりはしない。
だから、だから。
だが願いは虚しく、彼らは振り返りもせずに駆け上がって行った。
あぁ。もう海面からは何も届きはしない。
あぁ、沈んでいく。
沈んでいく。
鹹水と絶望感だけが残った肺。
光も音もない世界。
そこはまさに大海だった。
そんな中を僕は沈み続けていく。
あぁ。大海には底なんてものはないのかも知れない。
だが、それがどうしたというのだ。
もう鹹水以外何もない僕には関係がない。
だから、
だから、
僕は沈んでいく。