花束の残像
たりぽん(大理 奔)

真昼のソファーで目を閉じると
いつだったか、夜を待った日の
高原の風を思い出します
肩の高さほどの草むらを抜けて
尾根にむかう踏跡をたどり
軽く息を切らしながら
ずっと星に近いところにたどり着き
赤道儀を据えると
北極星と結ぶのが極軸
夕日の沈む速度で宇宙がまわりだすのです
低く、高く
いくつもの等星を組み合わせ
いたずらに、遠い物語を続けます
臆病な胸は
ほんとうに手に入れたい小さな物語を
深くふかく沈めて
手の届かない花束に
永遠の命を与え
それを抱えた腕が弾むとき、また
遠く暗闇にゆっくりと落ちてゆくとき
まぶたに残像を認め
それを思い出というのは
あまりにもやさしい誤解です
星の短針がおおきくまわる速度より
ゆっくりと傾いていきます
その反対から
漆碧が昇ってきます
寒さで肩がふるえます
効き過ぎたエアコンのおかげで
目を覚ますと
頬にひとすじの夜露が、

ああそれも
あまりにもやさしい誤解なのです


自由詩 花束の残像 Copyright たりぽん(大理 奔) 2009-08-18 00:10:45
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