金魚救い
亜樹

 あの小さな赤い魚が
 どうしようもなくイラつくので
 近頃はもう
 祭には行かないことにした。

『可愛い』
ということだけが
存在意義の
小さな魚に
子どもたちが群がって
頼りない網で
救い上げた気に
なる
光景が
いつのころから
ひどい
吐き気をもよおすようになった。

 だというのに
 祭の翌日に
 隣の子が捨てた金魚が
 家の前の溝で浮いていて
 0になった体が
 頼りなく揺らめいていて
 濁った水面に
 今にも倒れそうな
 私の顔が映っていて……


『可愛い』
ということだけが
存在意義の
小さな魚が
泳いでいた
あの
小さな
透明な
ビニール袋の
ささやかで
精一杯の
重み
さえ
もう
思い出せないのに
溝に浮かんだ
小さな魚は
ただ無言で
私を
あざ笑っている。

 たった一晩の
 夏の幻のような
 赤い
 小さな
 魚ほどの
 存在意義をもたない
 私を
彼等は
ただ
あざ笑っている 


自由詩 金魚救い Copyright 亜樹 2009-08-16 23:44:58
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