ゆうれいのダイアリー
コーリャ



/7月14日

バスを待つのは孤独な作業だ
ショーウィンドウに映写したすがたは
まるで霊体みたいにみえ
もしほんとうにそうだったなら
きみにもおんなじ
感謝と崇拝と
それいがいのいらない感情を
あたえることができるのだろうか
夜明けと夕暮れでできたモグラの
でかいヘッドライトは
暗闇にしめった雨道を掘って
短い息を吐きながら
バスストップの前でとまり
個人的なゆうれいたちは
ほとんど同時に
腕時計をのぞきこむ
秒針のようにふる雨が
頬にあたる


/6月28日

夜光が行進していく
明け透けな音楽が鳴りはじめる
質感をもった音符はやがて成魚になる
五線譜からは魚群が流れ出し
街へと行くのか
あらゆる窓辺の金魚鉢にシルエットをうつし
光を飼育し観察する子供たちは
いっしゅん寒気をかんじて
クレヨンを折ってしまう


/6月28日

少女はさいごに映像の検査をしている
たとえばそれは
月にむかって空気銃をうつことであったり
いつかみた火球がもうひとつの地球へとながい旅にでかけていたり
魔法使いが雨で街をとじこめたりすることで
それらの反故がないと確認し次第
じぶんがあふれでてくる境界を
アイスピックでだいたんに
たしかめていく


/7月7日

まるで絵具みたいにもうもうと煙をあげる煙突
ひとびとの足音に踏み荒らされた
ゆうれいの置手紙をみつけた
裂かれた断片をさがすが
たぶん火葬されていっている
尖塔の鐘が鳴って
灰がきらきら舞っている
サイレント


/7月22日

呪いはふとした光の加減で
祈りみたいなかおになる
世界じゅうの美声が音読する詩を
蒐集したレコード屋にいきたい


/7月15日

いやな夢からめがさめると
コップにこぷこぷとそそがれた
北極海に
夜通し溺れていたことに気づく
それでもまだ水死できていないのは
じぶんが幽霊だからだ
もしくは魚類だからだ
どちらにしても無慈悲である


/67月21日

朝の街と夜の街をくらべると
ときどき世界がいぶかしい
希望はつれない女の子みたいだ
いつも遅れてやってきては
いつまでも忘れられない言葉を残して
ほかの誰かに会うために
すぐどこかに去って行ってしまう


/252月1日

そして夜をめくりつづける
乾燥してペリペリの暦をやぶき床に捨てると
輪郭しか所持しない妻が
きちんとかさねていってくれる
しかし彼女は生前
魔女だったので
かってに数字が足し算されていき
いわく今日は252月1日だそうだ
せいぜい67月くらいとおもっていた
と詰ると
宇宙に行ったら手紙を書きます
と言った
たぶん
それが
離婚届けなのだろう


/67月8日

青い空を定規ではかるように
ヴァーティカルな道が地平線までのびている
まっすぐというχにひとりぼっちを代入する
「あの飛行機雲が墜落したあたりまで
行ってみようとおもうのです」
自縛霊のくせに
そんなことを言った彼が
いまどうしてるかしらない


自由詩 ゆうれいのダイアリー Copyright コーリャ 2009-08-16 12:21:28
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