オレンジ
あ。

剥いたばかりのオレンジの皮には
世界中の切なさが詰め込まれている



予期せず飛び込んでくる酸味はほろ苦く
容赦なしにやわらかいところを襲い
細胞のわずかなすき間からもぐりこんで
きゅうっときつく締め上げる



目印もないのに歩き回り
気付けば見慣れたスタート地点
間違えないようにと旗を立て
進みなおしたって結局同じ



迷子のうさぎは亀に負けてしまいましたとさ
口の中で呟いてくだらなさに笑ってしまう
歩くのだって得意でもないのに
どうしていつまで歩いてるんだろう


毒づいてじたばたしてるのに
もうちょっとで答えが見えてきそうで
放り投げることも出来なくて


そんな時に身体の芯が
やわらかくきゅうっとしなる
剥いたばかりのオレンジの皮みたいに



たどり着けたのか歩くのをやめたのか
いつの間にか旗は見えなくなってた
恐らく過去のものになっているのだろう
わたしは若くない
わたしは若くない



それでも
瑞々しいオレンジの攻撃を受けると
ほんのわずかに蜃気楼が
懐かしい景色がゆらめいたりする



余すことのない潤いをたたえた
きみは太陽の子



自由詩 オレンジ Copyright あ。 2009-08-14 21:19:24
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