性と死と血と果実とクーラーの箱
木屋 亞万

夜に開く花々に茎を突き刺し続けた男は死後
手の生えた花に、その肢体の隅々まで鉄の茎で刺され続ける

死後の性行為は互いに刺しあう
男は茎を股座に
女は刀を鳩尾に
紅白の体液を撒き散らしながら
男女は悲鳴をあげ続ける

愛し合わない男女の交錯ほど醜いものはない
愛し合う男女のまぐわいほど美しいものはない
その声も表情も臭いも、血の色さえも

人肌には柔らかすぎる布団の上で
幾組もの男女が身体を重ねている
それは死後の世界で、
昨日わたしが見た夢だった

死神は常に死んでいるか
死の神であるがゆえに死ぬことはないか
詩人は常に詩的であるか
人間であるがゆえに私生活を優先させるのか

検査の結果、体内で死の種が芽吹いていることを一週間前に伝えられた
レントゲンの画像に写った死の果実はよく熟れていた
収穫しても納期は過ぎているので売り物にはならないと医師は言った
あなたの体内でこの果実が爆発すれば即死です、おめでとうございますと彼は言った
内詩鏡科に受診したつもりが、内死提供科を尋ねていたようだ

朝起きたら、鳩尾に包丁が刺さっていて
散りかけた花びら、開ききった花弁の姿で妻が、足元に立っていた
血は思った以上に溢れ出て、砂場を掘っていたら水が沸いてきたときのような喜びがあった
血液の生温かさとは裏腹に、身体はどんどん冷えていくように感じられた
薄れゆく意識のなかで、死の果実は緑黄色野菜に入るのかを
家庭科の先生に聞きそびれていたことを思い出した

氾濫しても川の流れは軌道修正も流量制御もしない
血液もとめどなく外の世界へ溢れ出している
結局わたしたちは必ず何かに殺されているという誰もがたどり着く極論が頭を真っ赤に染めた
その何かが、医師か妻か自分か社会か大自然か、あるいは死人か死神か、それだけだ

妻はわたしの腹をバターナイフのようなメスで切り開いて、
臓器をクーラーボックスに詰めていった
彼女はわたしの臓器を背負って街へと売りに出かけるのだろう
それで家計が少しでも楽になればと思わずにはいられなかった


自由詩 性と死と血と果実とクーラーの箱 Copyright 木屋 亞万 2009-08-11 01:10:28
notebook Home 戻る  過去 未来