スーパーへ行く人
吉田ぐんじょう
毎日
夕暮れ時になると
必ずスーパーマーケットへ行ってしまう
何か買うべきものがあるように思うのだ
冷蔵庫の中には
肉も野菜もそろっているのに
心の片隅がすうすうして
それを埋めるものを買いたい
自動ドアが開くと
許されたようで安心するんだ
そのまま
棚と棚との間を回遊魚のようにふらついて
カップラーメンをいくつか籠へ入れた
子供のころ
日曜日に父親と二人きりだと
昼食は毎回カップラーメンだった
大きいやかんで沸かした熱湯を
二人で大騒ぎしながら線まで注いだ
そのためか今でも
カップラーメンを食べるときは
少し嬉しくなってしまう
Mサイズ無精卵十個入りを
手に取ってしげしげと眺める
養鶏場で
卵を産むことを強制されているめんどりは
一体どのくらい居るのだろう
無精というところがなんとなく残酷だ
卵をうみきったら
最後には生きたままミンチにされてしまう
かわいそうなめんどり
そんなめんどりのことなんかお構いなく
ぐちゃぐちゃに卵をかき混ぜて食べるわたし
牛乳の棚の前で立ち止まる
あまり牛乳ばかり飲むためか
今でもわたしは背が伸び続けている
こないだの健康診断では
医者に
百年たったら東京タワーを追い越すくらいになる
と言われて
おそらくだけどわたしはあと百年も生きられないと思います
と答えた
百年後の世界に思いを馳せながら
たぷんとしたやつをひとつ籠へ入れる
レジ打ちのひとの横顔は
びっくりするほどあおじろい
小銭を出しながらいつも思う
このひとは
このスーパーの中に住んでいて
長いこと外へ出ていないのかもしれない
カップラーメンや乾物に囲まれて
案外安らかに眠っているのかもしれない
と
会計を済ませて表へ出ると
もうすっかり暗くなっている
突っかけてきたビーチサンダルは
昼間の熱がまだ残っているアスファルトの上で
ぱすぱすと心もとない音を立てた
心には未だ
すうすうと風が通り抜けていて
とても静かだ
ぶら下げたマイバッグの中には
死んだものばかり詰まっていて