夏空に溶けたきみへ
あ。

空で迎える最初の誕生日に
どんな言葉を送ろうか


どういうわけかわたしの周りには
夏が好きな人が多くて
きみもその中の一人で
暑いのが苦手なわたしには
何度夏の良さを説かれても
賛同することが出来なかった


或いは
磁石のN極とS極みたいなもので
わたしが夏嫌い冬好きなものだから
夏好きな人が多かったのかもしれない



それなのに
みんなみんないなくなってしまう
だから余計に好きじゃなくなる



この季節の空は余りにも広くて
余りにも遠くて美しすぎて
涙をこぼさないように上を向いても
かえってこぼれてしまいそうになる



夏に生まれて夏を愛したきみは
遠いところにいったんじゃなくて
風景の何処かに溶け込んでいるって
そんな風に思いたい


輪唱みたいな蝉の鳴き声の中に
赤紫に咲く朝顔の花びらに
汗を浮かび上がらせる陽光のすき間に
ベランダで飛ばした西瓜の種に
青くて深い空と優しい大気に


今はただ隠れているだけだって
いつか会える日が来るって思いたいんだ


スーパーに行った帰り道
銀色の猫がしとやかに歩いていて
野良には珍しく擦り寄ってきた


無類の猫好きだったきみを思い出した
そういえばきみの家の三匹の猫たちは
相変わらず元気にしているみたいだよ



空で迎える最初の誕生日に
きみは変わらずゆったりと
みそひともじを綴っているのでしょうか



八月一日に誕生日を迎えた歌人であり詩友である、故・笹井宏之氏へ



自由詩 夏空に溶けたきみへ Copyright あ。 2009-08-02 15:50:07
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