AV女優
小川 葉

 
 
宇宙の規格が
地球の法則になる
出来事として行われたならば
街の片隅に残る
擦り切れたビデオテープを
永遠に焼けばいい

ノスタルジックな伝統が
息づく吐息は
乾ききらない桃色のまま
パフュームという名の液体で
夢の恋人に贈られる

草の上に寝転ぶと
同じ匂いがした
一枚の絵になれば
演出だけが際立って
誰もいないベッドの上で
一人きりの女優が
女優たちになりながら
自らに埋もれていく

誰もいない撮影を
するためだけのその部屋で
命あることの証明を
明るすぎる照明の下
明らかにされた記録の
記憶を背負ったまま
一時代を通り過ぎたからだを
夜露に晒すと
若さは月明かりに溶けていく

吐息は宇宙に近づきすぎて
もはや呼吸ではない
それでも地球上で喘いでいた
命もまた演技として
何ひとつ変わらない
ビデオをまき戻しても流れない
わたしたちの涙の理由なんて
誰も知らない
 
 


自由詩 AV女優 Copyright 小川 葉 2009-08-01 03:31:29
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