それらしい詩
木屋 亞万

あなたの目は人間に狙いを定めるために焦点を合わすのではない
あなたの指はピストルの引き金を引くために折り曲がるのではない
あなたの胸は誰かに狙われるために膨らんでいるのではない
あなたの肌は鉛の玉を通すために柔らかいのではない
あなたの血はシャツを赤く染めるために流れるのではない
あなたの爪は地面をかきむしるために硬いのではない
あなたの足は背中を踏みつけるために扁平なのではない
あなたの口は人を蔑む言葉を言うために開くのではない
あなたの耳はあなたがそんなことを言うのを聞きたくはない

立場のために足を引っ張るな
欲望で人を襲うな
集中力を人殺しに使うな
言葉を暴力に使うな
言い訳のために人を傷つけるな
無知なまま人を責めるな
雰囲気に飲まれて笑うな

誰かの足を引っ張るなら
もう少し高いところに届いたもの同士でするがいい
泥沼の中で足を引っ張り合っても
両方おぼれてしまうだけだ

すべての意味が間違いから始まるのならば
意味を信じすぎない方がいい、価値に頼らないほうがいい
そのことさえわかっていれば、意味も価値ももはや無毒だ

始まったものに必ず終わりはあり、生まれた以上は死ぬしかない
その間で何が起こるか
たいした事は起きないはずだ
劇的な変化を望むのならば他の命の生死を感じるといい

この世のすべてはそれらしいことでできていて
それらしいことは命のつながりのなかで複雑になっていく
何だかそれらしいものを、いくつか手にとって見たけれど
それらしいものは決して曖昧さを脱いではくれない

ピアノの鍵盤はいくつも隣り合ってそれらしい音を出す
線はいくつも重なり合ってそれらしい絵画となる
言葉はいくつも飾りあってそれらしい文となる
人間はいくつも関係があってそれらしい性格となる
この世はそれらしいことでできている
はっきりしたものにこだわりすぎると、
知らない間に傷だらけになってしまうよ


自由詩 それらしい詩 Copyright 木屋 亞万 2009-07-31 01:27:26
notebook Home