まどろみと日常
百瀬朝子

穏やかな波がわたしを襲う
安心してゆだねきっていた
わたしの過失
死んでしまった貝殻に
疑いを隠していた

    ここは、なまぬるい
    それは、
    時にあたたかいことと等しくなる

遡りたい
肌の色が透けていく
儚く脆い少女になる
少女は波を見る
一瞬の飛沫に馳せる思いは
どこにも届かず
荒れ狂う波にのみこまれる
いや、身も心もそのすべてを
のみこまれたいと欲している
少女はただ
忘却するのを待っていた

    ここでは、地面が波打っている
    それは、
    信じていたものの崩壊を意味する

ありえないという観念と現実の狭間で
事実だけがくっきりと浮かんでいる
わたし は
   ま
    ど
     ろ
    み
     たく
       なる
 (つらい、
(くるしい、
 (こわい、
鼓膜に膜が張る
脈が飛ぶ
遠ざかる雑音に
遠のく意識を任せたい

わたしはひざを抱えて震えてる
いや、膝を抱えているのは少女の方か
猛烈にまどろみ、たく、なる――――
ここでは現実が渦をつくる
ゆがむ理由を知りたい
のみこまれたのは少女の夢
儚く脆い
わたしは逃げたい(逃避、(逃避、(逃避、
膜を破りたい
突き上げてほしい
この身に起こるそのすべて
忘れるくらい激しく
遠くまで
いかせてほしい

――――沈黙。漂着。冷静。

食事を、しなければならない
少女は置いていかなければならない
排泄を、しなければならない
夢のかけらを拾いに行ってはならない

わたしたちは、日常を送らなければならない
許されるのは、深いあくびひとつ分までの非日常


自由詩 まどろみと日常 Copyright 百瀬朝子 2009-07-19 17:41:23
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