こんこんちきちん
あ。

恋人同士で祇園祭に行くと破局するんだって
昔からそんな噂がまことしやかに流れていた


きみからの誘いを断らなかったのは
おろしたての浴衣に袖を通したかった気持ち半分
別れたらそこまでの縁と割り切っていたのが半分


四条通は歩行者天国になり
普段車で埋まる道が大勢の人で埋まる
いつもの繁華街はなりをひそめ
なのにいつも以上の熱気と賑わい


普段と同じように大またで歩くと
浴衣はすぐに崩れてきてしまう
きちんと結んだ黄色い帯の裏側は汗がにじみ
扇子であおいだってちっとも涼しくならない


こんこんちきちんと鈴の音が聞こえる
見上げれば腰掛けて鈴を引く稚児の横顔
長刀鉾は女人禁制でのぼれないから
きみは額に汗を浮かべて一生懸命
女性ものぼれる鉾の場所を聞いてきてくれた


帰りの電車は満員で動けなくて
すくった金魚をつぶさないように必死だった
青色だったはずの浴衣は濡れて濃紺に染まり
きみは窓の外から視線を動かさなかった


電車を降りると家まで歩く
袋の金魚がちゃぷちゃぷ揺れる
それまで無言だったきみは急に笑って
また来年も一緒に行こう、と言った


あれからもう何度目の夏かわからない
スーパーで夕飯の買い物をしていると
女子高生の嬌声が後ろを通り過ぎる


カップルで祇園祭に行くと別れるんやで
その噂有名やんな、ほんまかな


こんこんちきちん、こんちきちん
耳の奥にあの聞き慣れたリズムが響く
ひき肉を手に取り、餃子にしようと呟く
きみの好物、わたしの得意料理


自由詩 こんこんちきちん Copyright あ。 2009-07-17 19:13:32
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