寿司屋の生ビール
ふくだわらまんじゅうろう

寿司屋っつったって
回転寿司だよ
仕事おわってさ
仕事ったって郵便配達の
しかもアルバイトだったさ、当時
しかしこれが夏真っ盛り
炎天下でヘルメットかぶって
制服着て
汗かいてしかも残業一時間
とか二時間
やってみなって
帰り道
渋谷の駅おりてそのままつぅーっと乗り換え
なんてできないよ
地上に出ちゃってさ
街に出ちゃってさ
一皿110円の回転寿司さ
まだ晩飯どきの列が並ぶちょっと前さ
そこの寿司が、ね
そんな旨いわけじゃあない
そこの生ビールが、ね
旨いんだ
生ビールったって、ね、人間が入れるんじゃあない
今日びへたっぴぃなアルバイトだか社員だかわけのわからない輩に生ビール入れろったって、ね
そんなもん飲むくらいならまっすぐ家に帰ってだな
冷蔵庫でよぉく冷やした本生のほうが、ずうぅっと旨い
でもその店の生ビールは、ね
ロボットが入れるのさ
ロボットったって、ね「オカワリ、イカガデスカ…」とかなんとか
かくかく動くような人間型のロボットじゃない
ただひたすらに生ビールを入れるためだけに造られた機械だよ
これが、ね
じょうずにビール、入れるのさ
それが、さ
まあ〜
旨いのさ
寿司なんか
二皿ほどしか喰わないよ
その生ビールが
お目当てなんだよ

俺の仕事は
こんなふうに
くだらない詩を書くことなんだよ
金になんかならないよ
金儲けに興味ないんだよ
出世とかにも興味ない
勝った
負けた
くだらない
俺は自分が書きたいように
書きたい詩を書いて
それが仕事だよ
ビール代稼ぐためのお給金なんて
仕事じゃねえよ
ほんとは、もっと、いい曲かけたりとか
演奏できたりすりゃあいいのかも知んないけれど
俺は
くだらない
詩を書くことしかできないのさ
誰も読まないような
くだらない
詩を書くことしかできないのさ
だけどこれが仕事だよ
日銭稼ぎなんてなんとでもなる
そんなものは仕事でもなんでもねえさ
生存競争なんてものは
仕事にしちゃあなんねえのさ
出世なんてのは
ジャンケン強いのと同じようなもんさ

寿司屋の生ビールが俺を祝福する
「汝はくだらない詩を書く詩人である」と
「そうさ、俺は、くだらない詩を書く詩人さ」と俺は答える
ジョッキはキンキンに冷えている
外にはギンギラギンの真夏の太陽が
夜に向かって傾いている
俺はロボットにチップをやりたくなるのだけれど
どうせ店長に横取りされるに決まってる
人類はそうやって
風呂場のカビなんかより遥かにしたたかに蔓延はびこってきたんだ
俺の胞子は文字たちになって
できそこないの軍隊みないな整列の真似事
「おすすめ」のイワシは生臭く
生温いシャリが俺の階級を表している
それでも律儀なロボットは
誰にも平等に旨いビールを注ごうとしている
だけど俺にはわかっているのさ
この店で
俺と同じビールを飲める奴ぁ二人といない






自由詩 寿司屋の生ビール Copyright ふくだわらまんじゅうろう 2009-07-16 00:41:04
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