迷宮組曲/第4楽章/夜空の涯
遊佐




  *1
宛先の無い便りがポストを探して彷徨っている
剥がれたかけた切手の刻印は遠い町の名が記されている
色褪せた封筒は数え切れない程の皺と手垢にまみれている
同封された写真には笑顔が二つ並んでいた
きっと長い旅に疲れてしまったのだろう
解けた封印が
旅の終わりを暗示している

夜はまだ始まったばかり



  *2
女は昔、時計回りに夢を並べながら枕を抱いて星を探していた
今は和みを懐きながら時計の針を逆に回している
少年は旅の行く先を南十字星の向こうに求め船出した
振り出しが目指す場所だと気づく頃に
旅を知り大人になる

足下に在る物が見えず更に遠くを覗き、見失い、途方に暮れた時
ふと足下に気づく

夜が微かに色づき始めた



  *3
街灯を遠く離れて
夜光虫がひらり
夜の涯に辿り着こうと健気に舞っている
果てしない迷宮の終わりは
街を抜け河を越え
遥か西を目指し大陸へと続く大海原で銀河を目指して大空高く舞い上がり
果てしない迷宮へと迷い込む
いつ終わるとも知れない旅は続く

全てを流す河の岸辺から流した手紙は行く宛を知らない
手放してしまう前に気づくこと
それが大事

夜は隆盛を極めようとしている



  *4
星は夜に生まれ夜に消えて行くのではなく
常に生まれては消えて行く
人は生まれた場所へ帰って行く事が出来る
月が地平に帰るように其処に行けば良い
昨日笑いながら旅立って行った少年が
違う笑顔を提げて帰って来る
昨日泣きながら見送った少女が
違う涙を流しながら
同じ場所で待っている
解けた手紙から飛び出した写真が夜に帰って行く
街は終息へと向かう手筈を整えて、一つ一つを寝袋にしまって行く
朝が仕度を整えて傍らで出番を待っている



  *(終演)
夜光虫は泳ぎ疲れて
大海の懐深く抱かれて眠る

目指した夜の涯に
遠く想いを馳せて






自由詩 迷宮組曲/第4楽章/夜空の涯 Copyright 遊佐 2009-07-13 22:17:53
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