( もうひとつの世界 ) 
服部 剛

深夜、スタンドの灯りの下で 
古書を開き、ふと顔を上げれば 
暗がりから、祖母の遺影が微笑み 

隣には、先月三途の川を渡って逝った 
富山の伯父の葬儀に行った 
お礼に贈られた 
金箔に桜の散る柄の時計が、秒針の音を刻み 

和室の隅に 
祖母の弾いていた三味線は 
木乃伊みいらのように包まれて 
立棺に納まり、いつまでも沈黙している 

( 扇風機の風に、掛軸に飾られた 
  水彩画の花々が、何かもの云いたげに 
  一瞬、ふわりと浮き上がる      ) 

そうして何時いつかすべての者達は 
( ものの世界 )へ入ってゆく 

夜空に埋れた満月のように 
墓石に埋れた眼球のように 
姿を隠した( もう一つの世界 )から眺める 
在りし日の人々 

地上に残された者達は 
視られている者達は 
やがて
深夜に身を置き 

絶え間なく鳴り響く 
自らの鼓動に、包まれる 








自由詩 ( もうひとつの世界 )  Copyright 服部 剛 2009-07-09 21:36:06
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