二十歳を過ぎたモラトリアム
百瀬朝子

幻影に怯え現実に目をつむる
そんな大人になってしまいました
あたしは二十歳はたちを過ぎたモラトリアム

あんなに幸せを感じた日々もあったのに
持続できないあたしは罪人のよう
檻の中で一人静かに
孤独が流れ去っていくのをじっと待つ
隙間風の冷たさに友の影をみた

揺れては女のあたしが云う
「老いればガラクタ同然のかわいさならば
 使ってなんぼの武器にしなさい」
揺れては人のあたしが云う
「そんな武器で手に入れたぬくもりは
 心まで温めることができるのか」
戦っている
争ってはいない
彼らはあたしに女であってほしがる
あたしはそんな彼らを踏みにじりたくなる
全身で拒絶したい
それができないあたしは揺れるから
息を切らして戦っている

苛まれるのはいつも夜
月は出たり引っ込んだり隠れたり
今夜は星がよく見えるので月は引っ込んでいるのだろう
孤独もいっそ引っ込んでくれればいいのに
あたしを照らすように見下ろしている
不安で寝苦しい夜は
流れる雲の過ぎ去る一瞬の影に孤独を隠そう
そのわずかな隙に眠りについてみせるから

二十歳を過ぎたモラトリアムは
働く明日のために眠る必要はないのです
ただ夢を見るためにだけ眠るのです


自由詩 二十歳を過ぎたモラトリアム Copyright 百瀬朝子 2009-07-07 20:46:20
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