宮沢賢治からのメッセージ 〜言葉というたべものに就いて〜
服部 剛
6月の「ぽえとりー劇場」のオープニングでは、Ben’sCafeに集まる人にとって言葉の味わいの深まるような有意義な詩の夜となるよう願いをこめて、宮沢賢治の「注文の多い料理店」の序文を朗読しました。
読んだ人は皆感じることかもしれませんが、宮沢賢治の文はとても詩情があり、詩を読んでいるのと同じ感覚で朗読しました。そしてこの序文は、宮沢賢治が詩というものにこめた一番大事な想いが語られている文なので、Ben’sに集う詩の仲間とぜひ共有したい内容なのです。
岩手のイーハトーヴという桃源郷に立つ賢治は、野に吹き渡る風を食べ、桃色のうつくしい朝の日光を飲み、いのちの歓びを自らの内に充たしています。そして、賢治が(はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。)と語っている言葉から、日常の何でもない素朴なものの内に宿る美しさを見出す詩人の視力があり、むしろ世間的に格好よいものより、あわれで哀しむような存在の内にこそ、その人に宿る光を見出そうとする、詩人の魂を感じます。
(これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです)と、賢治は自分の目に映る全ての自然の情景が、生き生きといのちの言葉を自らに語りかけて来る声として全身の感覚で受け取りながら、詩や童話になってゆくことを、言葉にならぬ感動をもって、私達に今も語りかけています。
「注文の多い料理店」は、賢治の生前に唯一刊行された童話集です。その序文ですでに、賢治は自分が詩や童話を書く上で、一番大切なことを、時を越えた読者への遺言のように語っていることが、賢治の言葉から伝わって来るのです。この手紙の最後に、宮沢賢治からあなたへのメッセージを届けたいと思います。
わたくしは、
これらのちいさなものがたりの幾きれかが、
おしまい、貴方のすきとおった
ほんとうのたべものになることを、
どんなにねがうかわかりません。
多くの人が日々の喜びや哀しみを、詩の物語として朗読する「ぽえとりー劇場」で語られる言葉も、まるで「生の本」のような詩の夜に皆で集い詩を愛する仲間にとって、言葉が皆で分け合うかけがえのない食べ物になることを、僕は心の底から願っています。
※ この文中は「イーハトーヴからのいのちの言葉」
山根道公・知子(角川書店)より
宮沢賢治の言葉を引用しながら書きました。