家族
たもつ
○父
窓から庭のブランコを
眺めることが多くなった
あれにはもう一生分乗った
と言って
時々体を揺らす
背中が
押されるところではなく
支えられるところとなってから久しい
○母
美味しいのは音でわかる、と
スイカをひとつひとつたたき
一番良い音がしたのを買っていく
後には粉々になったスイカが散乱し
甘い匂いとともに
短い夏は始まる
○兄
深夜、起きだして
大好きな人のために
ひとり
腕立て伏せをする
○僕
これでも昔はもてたんだぞ
と自慢したりするけれど
今でも満員電車が苦手で
人に足があると踏んでしまう
蟻などは
必要以上に潰さなくなった
○弟
外野フライを
どこまでも追いかけたまま
春の河川敷から帰ってこないので
未だに図書館から
「宇宙戦争」の返却依頼がある
○妻
名付け親でもないのに
一番僕の名前を知っている人
そして僕が
決して名前を忘れない人
あなたを知らない人生より
あなたを知っている人生の方が
ほんの少し長くなった
○家族
世界で一番小さい、さびしさの単位
○娘
鳥にいじめられて
部屋の隅っこで丸くなってる
それでも絵を描くときは
鳥のための
青い空を忘れない