雨の匂いをこらえている
佐野権太

鉢植えは
水をやり過ぎて
いつもだめにしてしまう
気持ちが強すぎるのだろう
あなたのようにはいかない

虹のような光沢を紡いだ糸車が
カラカラと終わりを告げても
流れる水のなかで
目を見開いたままの私は
光をうまく調節できない

まぶしい
夕暮れのほうから
あなたの輪郭がやってきて
また会えない、といって
永遠のようにゆれている



キッチンのすり硝子から
浅利の水深に
西日が突入する
白い内臓をはみ出しているのが
小さな私だ
リル、シェリル
砂と粘液を吐き出すばかりで
いつまでも
波音を聴かせてくれない



空と海の
かすんでゆく辺り
あれを
水平線と呼ぶのは
どうしてだろう
どこまでも空で
どこまでも海がいいのに





自由詩 雨の匂いをこらえている Copyright 佐野権太 2009-06-26 08:55:36
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