酒の呑み方を考える
ふくだわらまんじゅうろう

     酒の呑み方を考える



田んぼに水が
入ったんだかどうなんだか
蛙の合唱を子守唄がわりに
うとうととしつつ我が生涯をなんとはなしに振り返り
いつの頃からか
我が人生を
好くも悪くも捻じ曲げてくれた
酒と女と
音楽とについて考えてみる
音楽はやめた
女も半ば
諦めた
いまだに、この
裏路地風情の人生に寄り添うのは
酒だなあ
発泡酒だが銘柄指定の
そこは頑として譲れない
銘柄指定の
酒だなあ
時にはいにしえのデカダンス
我が唯一無二の親友にして敬愛してやまないあの画家をも
中毒に貶めたほどの幻の酒の
緑色に揺らめく蘇りを悪戯に味わってもみたり
それでも(ああ、俺は今、いい詩を書こうとしているなあ
できるだけ立派な詩をしたためようなんてしているなあ
そんなこと
今の俺にはできるはずもないのに
いや
そんなこと
する必要さえもないというのに
ついつい
そのことを忘れてしまうのだ
そして何をか成し遂げようとしてしまう
まったく
愚かで
恥ずかしいことだ
いや
恥ずかしくはないかもしれないけれど
愚かしいことだ
しかし
愚かでなくて
何が人生か
生まれながらに賢いならば
救世主にでもなるしかないじゃあないか
こんなに愚かで
迷い迷っているからこそ
この愚鈍な惑星に生き
食し
糞する
必然があるのじゃあないのか、俺よ
なあ、俺よ
迷え
間違え
恥の上に
恥をかさね
生きて生き恥の二酸化炭素
やがて
死んで花実の窒素や尿素
カルシウム
この愚鈍な惑星を穢し穢して
生きるのだ
そうだ
酒も喰らって
酔い痴れて
恥の上にも恥を
かさねて
生きるのだよ
死にたい
なんて
思ってもいいよ
思ってもいいけれど死ぬ前に
もっとそれ以上の恥を
愚かさを
みっともなさを
情けなさを
この愚鈍な惑星の地表を彩る
新しい色彩のひとつとして
もうひと塗り
さらにひと塗り
塗り重ねて
それはまるで花火のように
ゆこうじゃないか
そら、ごらんよ
この詩にしたって恥そのものだよ
けれども秋の山の紅葉も
死にゆく木の葉の色彩だよ
恥ずかしいんだよ
生きるってのは
だいたいが
あんなところにあんなもんをつっこんで
すっこんぱっこん腰うごかして
「ああん」だとか「はあん」だとかみっともない声を漏らして
目を裏返して、それこそ親にも見せられないような顔して果てて
そうしてできた命だよ
うんこが捻り出される穴の
すぐご近所から捻り出てきた肉体だよ
さあ、どうする
格好のいい詩など捻るか?
じょうだんじゃない
さあ、呑め
笑え
自分を笑え
何が恐るるに足るか?
詩の真実が何だ!
音楽の真髄が何だ!
芸術の真価が何だというのだっ!
酔って
さんざん
恥をかいて
かわいいおねえちゃんにふられて
泣いて
日暮れの電信柱にしがみついて野良犬に小便ひっかけられて
そうして生きてゆくんだよ
そうして、この
愚鈍な惑星の愚鈍な地表に
醜くも
小さな花
咲かせてゆくよ)




自由詩 酒の呑み方を考える Copyright ふくだわらまんじゅうろう 2009-06-15 22:53:20
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