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靜ト

町外れの海辺の林の中に
小さなトタン屋根の小屋があって
そこで彼は毎日作っている

「動き続けることに意味がある、しかし動き続けるだけでは意味がない」

彼は思う

彼はずっと作り続けているのだ
道具なんて無い(というよりすべてが道具なのだ)
彼の作品は数え切れない(もしかしたら無限かもしれない)
けれども彼の作品は目には見えないし
彼一人では残すことすらできない
彼は唯一無二の職人であるが
彼は世界中至る所にあまたといる

昔彼には大切な両親がいて、厳格な祖父と、賢明な祖母もいた
やがて彼には友人ができ、恋人ができ、結婚し、子供も生まれた
最初に祖母が死に、父が死に、祖父が死に、母が死んだ
やがて妻が先立ち、子どもは都会に出て行った
友人も一人、また一人と減って
丈夫な彼は一人きりになった

「例えば私が死んだとして、私の作ったものは存在したといえるのだろうか」

彼は憂う

彼は毎日このトタン屋根の下で
起きて、食事を2回とり、その間に畑を耕し、水をくみ、眠りにつく
その繰り返しだ

でも彼は作り続ける
生きている限りはずっと、刹那ほどの休みもなく
特に褒められもせず、批判されもせず
それでも作り続ける

一体何の意味があるのだろうか
おそらく意味などないのだろう

だから作らなくてはいけないのだ
意味のあるものを
一つ一つがどこにもないような尊いものを

彼が死んだ時、きっと誰も彼のことを知らない
けれどもそこで作り続けたものは
何物にも代えることができない

「これでよかったのだ」
そうやってほほえんで作り終えられる日を
すべての作り続ける人が望んでいる



自由詩 メーカー Copyright 靜ト 2009-06-14 00:54:52
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