かさぶたの記憶
あ。

大切かどうかわからない記憶は
抱えていた膝小僧のかさぶたにある

転んだのは最近のことだったか
それとも遠い過去のことか
鉄さびのようなすすけた色は
かつて赤い液体であっただろうことを
かろうじてそこにとどめている

時間軸は定まっていないのに
伴う事情だけはやけに鮮明で
赤い血と一緒に出て行けばいいのに
すぐに固まっていつまでも残って

起き上がったら一寸先も見えない闇
東西南北どっちなのかもわからない
方位磁針はなくしてしまった
膝を抱えて小さく丸まっているのは
多分その時からだろう

誰かの声が聞こえた気がして振り返る
見つけて欲しくて手を伸ばすと
きっと最初からここにあった窓が開いて
涼やかな風とふわふわの光を運んできた

見つけてもらえなかったんじゃなくて
放り出されたんじゃなくて
自分で隠れていたことを知った
本当はすぐ側だった扉を押して外に出ると
声のするほうへ走って行った

かさぶたはいつの間にか綺麗になっていた


自由詩 かさぶたの記憶 Copyright あ。 2009-06-12 17:43:47
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