飼い主
竜門勇気


クマカクレミノムシの幼生期はちょっと女子供には刺激が強すぎる。
六本の足と鋭い牙でヒトガラハナシの成体を捕食するからだ。
ヒトガラハナシは四本の触手と常に露出されたクレパス様の生殖器官を有するヒルに似た生き物である。
捕食者であるクマカクレミノムシはヒトガラハナシに酷似した容貌を持っているが一対の触手間に備えられた棒状の器官(ノルベ)によって区別されている。
かつてその風体から阿修羅虫と呼ばれたクマカクレミノムシは捕食の際には恐るべき獰猛な性根をあらわにする。ノルベをヒトガラハナシのクレパスに挿し込み、体内へ消化酵素を流し込むのである。
皮膚内でどろどろに溶けたヒトガラハナシが絶命したのを見計らい、クマカクレミノムシはヒトガラハナシの喉元に食らいつきおよそ一昼夜を費やし体液を吸いだしてしまう。
悲劇はその双方が酷く人間に近い風貌をしていることで中世には教会の命により、見つけ次第どちらも踏み殺されてしまい現在ではその姿を見ることはかなわない。
しかし、昨今になってとある禁書コレクターから提供されたクマカクレミノムシとヒトガラハナシの標本(和名はこれらに着けられていたラテン語の説明から)を分析した結果、二つの種は実は同一の種でありどうやら”とある今も存在する生物”と共通した祖先を持つことが分かった。
伝説によると、ヒトガラハナシは絶命する直前に「Ta-Su-Ke-Te」と悲痛な鳴き声を放つらしい。科学のメスによって再び我々がその声を聞く日は近いのかもしれない。

--日先日報--


散文(批評随筆小説等) 飼い主 Copyright 竜門勇気 2009-06-06 00:55:33
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