かなづち
新守山ダダマ

夏という字が
憂鬱の憂の字に見えてしょうがなかった
僕にとって夏はまさに憂鬱の季節だった
小・中・高と、ずっと水泳の授業が嫌だった
僕は無類のかなづちなのだ
小学校の時、テストで無理矢理25mプールを泳がされて
めちゃくちゃな平泳ぎで何とか一度も足をつけずにゴールした時は
本当に死にそうだった
それでも高校まで、水泳の授業には毎回出続けた
幸か不幸か運動音痴なのに健康で
クラスメイトの何人かは泳げるくせに
仮病を使って休んだり見学したりしていたのに
僕は嘘をつく勇気がなくて我慢した
泳げなくてみんなに笑われてもひたすら我慢した
そんな僕は従順過ぎたのか
高校を卒業してからは社会というプールをうまく泳げなかった
人生でもかなづちだ
何度も溺れかけた
今でもまだ足をばたつかせている 時折底に足をつけてしまう
僕は無類のかなづちだ
もう今さらかなづちを卒業することはできない
むしろこのかなづちをとことん生きてやろう
誰にもできないだろう 僕はこの金属の中を泳いでやるんだ
水をうまく泳いでも知ることができなかったことを
僕はたくさん知っているんだ
かなづちは水に沈むほど重い
重い金属 ヘヴィ・メタルだ!
僕は力強く、攻撃的に生きる!
もう僕は僕じゃいられない 俺だ!
俺は自分の弱さも痛みも正直に思いきり言葉にして叩きつけてやる!
人生の底に足をつけて 底力を見せつけてやる!
思いきり足をばたつかせて暴れてやる!
これが俺の強さだ! 強さとは人の痛みを知ることだ!
さあ夏だ! ロックフェスの季節だ!
俺には今、夏という字が正しく見える
楽しい季節だ! 憂鬱なんか吹き飛ばす季節だ!
心を熱くしよう とことんロックンロールしよう
熱いうちに鉄を打つんだ!



自由詩 かなづち Copyright 新守山ダダマ 2009-06-02 12:38:57
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