餓鬼
北村 守通

忘れてしまった
味覚が
どうしても
取り戻せなくて
ひたすら
食ってみるのだが

  味はない
  正確には
  なにかしら
  味のようなものはするのだが
  それは
  識別の範囲外であって
  可視光線の
  範囲外の
  波長の光と
  同じで
  存在を感じ取ることはあっても
  存在を認識することはできない

忘れてしまった
質感を
どうしても
取り戻せなくて
ひたすら
食ってみるのだが

  満腹中枢が満たされても
  満たされることはない
  もう
  食えないというのに
  食えなかった
  焦燥感が
  容器を破壊する

食いたいが
食いたくない
食うことで
崩され
失ってしまったことと
直面し
食うことの
悲しさを
知ることを
避けては通れなくなってしまう

  かつて
  満たされた
  幸せを与えてくれた
  魔法の一粒が
  今では
  無機質な
  なにも語らない
  ひとかけらに過ぎない
  呼びかけても
  答えてくれない
  顔を
  見せてもくれない
  噛み砕いてみても
  弾力は跳ね返ってこず
  味覚を通して
  脳に話しかけてはくれない

  もう
  話しかけてはくれなかったのだ


自由詩 餓鬼 Copyright 北村 守通 2009-06-01 02:38:42
notebook Home