季節に置いていくもの
あ。

ねずみ色のコンクリートが暗く染まる
何か落としものがあったような気がして
歩いて来た道を右から振り返ってみた
つうつうと機械的に落ちるさみだれ

庭に投げられっぱなしの花切り鋏は
いつから此処にいるのだろうか
赤茶の錆が鋭かったはずの刃をこぼし
迷子のようにぼんやりと佇む

太くてしっかりした葉は雫を浮かべる
防水加工でも施しているかのように
不思議なほど中には浸透していない
あくまで表面だけに丸くまとめてしまう

ビニール傘はぱたぱたと声を上げる
どこか楽しげなリズムで弾く音階は
水玉模様を踊らせるためのものか
それとも目的など最初からないのか

額にぽつぽつと汗がにじむ
きっと湿度が高くなっているせいだ
じっとりと服が身体にまとわりつく

巡り巡るサイクルの変化に
支度はちっとも整っておらず
多分ふっと思い出した落としものは
後ろ側の春にあるのだろう

もう、置いていく
過ぎた季節に、過ぎたわたしを


自由詩 季節に置いていくもの Copyright あ。 2009-05-30 00:28:48
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