季節に置いていくもの
あ。
ねずみ色のコンクリートが暗く染まる
何か落としものがあったような気がして
歩いて来た道を右から振り返ってみた
つうつうと機械的に落ちるさみだれ
庭に投げられっぱなしの花切り鋏は
いつから此処にいるのだろうか
赤茶の錆が鋭かったはずの刃をこぼし
迷子のようにぼんやりと佇む
太くてしっかりした葉は雫を浮かべる
防水加工でも施しているかのように
不思議なほど中には浸透していない
あくまで表面だけに丸くまとめてしまう
ビニール傘はぱたぱたと声を上げる
どこか楽しげなリズムで弾く音階は
水玉模様を踊らせるためのものか
それとも目的など最初からないのか
額にぽつぽつと汗がにじむ
きっと湿度が高くなっているせいだ
じっとりと服が身体にまとわりつく
巡り巡るサイクルの変化に
支度はちっとも整っておらず
多分ふっと思い出した落としものは
後ろ側の春にあるのだろう
もう、置いていく
過ぎた季節に、過ぎたわたしを