『山原水鶏、蒼穹に弧描く』
Leaf

そんな些細な鳴声
気にしな、



いかい?

あのマングローブの奥から蝙蝠達の会話が聴こえた
垂れ流したのはお前等じゃ、の声がいずこからか運ばれた

確か、茂みの先から暮れなずみ
臙脂に染まる夕影は
膝を抱えて独り蹲った、蹲った



誰がどこでどう間違ったのか
何故か私は鬱蒼とした山原の茂みで見つかった、と
彼は刀を鞘に収めるように月季紅色の嘴を閉じた



翔べない羽根は我が手とは思えない
私はこの両手を放棄し、掌合わせも腕組みもしない、と
意固地になって彼は畦道を駆けた



時は貴重だという講釈には与しない
私は順応とか進化とかいう意義を感じたことはない、と
狩りを終えた彼は緋縅の甲冑を外すように蹲踞した



恋しくもない蒼穹を仰ぎ
届かぬと知ってその短い手で
弧を描いてしまう習性つよがりにも涙しない

私は如何程の筋肉にも自惚れてはいない、と
彼はその強靭な脚力を以て裸体のまま車道へ跳躍した



それは偶然なのか、
通り掛かった
呆気無かった
呆気無く文明の利器に轢かれ平たくなった
予期していたかのようなその端然とした姿の儘に逝ってしまった



そこには雄々しさがあった
それでよかった
噬臍ぜいせいの悔いなど微塵もなかった



稀少なものは稀少な儘で
そのこと自体だけを以ての価値はない、と
眉白まみじろ水鶏が申したとか、いや否か



いづれにせよ俺たちも調整の具になる
いや、もう既にそうか

そんな些細な戯音
気にしな、



い筈もない





BGM:Green Day/Wake Me Up When September Ends


自由詩 『山原水鶏、蒼穹に弧描く』 Copyright Leaf 2009-05-29 18:49:57
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