覚醒
百瀬朝子

砂埃をかぶって
眠っていたはずの感情
ピタリと閉めたはずの蓋
カタカタと震えだす
振動で落ちた
蓋の中身が
目覚める

置き去りにしたはずの
悲しみが
鮮明によみがえる
これっぽっちも
ふっきれていないあたし
あの時と同じように
涙を流す

思い出が牙を剥く
爪を立てて
あたしの

に、まで
喰いこんで
その痛みを刻む

あたしは鳥籠の中のカナリヤだった
大きな空
広い外界
鳥籠の外の
、そのすべてに
憧れを馳せていた

そして、今
カナリヤは飛び出した
逃げるように
飛び出した

なぜか苦しい
手にしたかった自由は
こんな
んじゃ
なかった

足枷ははずれ、錠はおりた
縛られない
引き止められることもない
あたしは確かに
自由になった
なのに
そして、同時に
帰る場所を失くしていた


自由詩 覚醒 Copyright 百瀬朝子 2009-05-29 11:26:11
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