夢さわぎ
恋月 ぴの

良く晴れた多摩川沿いに走る二車線の都道
歩行者用信号機は青へ変わっているに右見て左見て
みーちゃんの手を引きながら急いで渡る

轢けるもんなら轢いてみなよ…いつもならそんな気概なんだけど

草いきれのする石造りの階段を一気に上りきると
夏らしい風が川幅いっぱいに吹き抜け
湧きあがる真っ白な雲までが出番来たかと張りきっている

急な雑誌の取材を受けるとかで忙しそうにしている先生に
子守りなら任せてと安請け合いしてしまったんだよね
後悔先に立たずとは良く言ったもので
狭い土手上を走り抜ける自転車やらランナー達に圧倒されつつ
お花摘みたいとせがむ手を離してはならぬと苦心惨憺疲労困憊の在り様

それでもぽにょとか歌ってくれたり
習いたてのお遊戯の振りとかしてくれると
手のひらから未来への熱気のようなものがびしばしと伝わってくる

ほんとの親娘だったら伝わってくるものの意味合い
もっともっと深くて確かなものなんだよね

この歳になるまで何人かのひとと恋愛してきて
今も一緒に暮すひとがいるけど心から子供欲しいと思ってみたこと無かったし
これからも望んだりすることは無いものと割り切ってはいたのだけど

このトキメキって新鮮というか神聖なものにも思え
アラなんとかなんて後ろ指差される私まで若返ってしまう気がするよ

しろつめくさの群生する緩斜面にしゃがみこみ
うろ覚えながら編んでみた花の髪飾りが良く似合って
みーちゃんは不思議の国のお姫様となった

そろそろお母さんとこへ帰ろうか

みーちゃんは上目遣いにこくりと頷くと
愛情の深さを測る三つ編みがぴょこたんと跳ね上がり

夕暮れの気配する向う側に見てはならぬものを見てしまった気がした


自由詩 夢さわぎ Copyright 恋月 ぴの 2009-05-25 22:52:55
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