死海
ことこ

いつか一緒に死海に行こうと
あの人が言うものだから
いつかっていつだろうかと
わたしは鼻をくすぐられる

あまいあまい
ほっとみるくのにおいは
たいようのように
あたたかくて
あつくて
とてつもなく
おもたい
おもたい
おもいおもい

はせる

沈殿した
こどもたちは
どんなに混ぜても
溶けきれなくて
ぱちぱちと
まばたきをするたびに
星屑のようなお塩が
飽和していく

ほっとみるくは
きらいです
いやにあまくて
おなかにたまる
ほっとみるくでおぼれてしまえば
きっとからだじゅう
べたべたで
もうこどもじゃないんだから
そんなの
たえられない
たえきれない

ここでは
どんな生き物も
生きることができないのだと
静かな墓標に
人々は浮かぶのだと
ね、なのに
あなたと手をつないでいれば
クラゲみたいに
からだを透かして浮かぶのも
悪くないかもしれない
なんて
思い描いた真昼のひかりは
波紋のように広がる

ひろがる
ひろがったのは
わたしのほうで
いえ
むしろいんりょくによせられたのであって
てをはなしてしまえば
しずんでゆくのだと
おもっていたのに
おそれていたのに
おもいおもい


拡散する
夏の影を
静かに剥がせば
生まれたての皮膚は凪ぎ
そうして影は
はじまりの淡水へと
還っていく


自由詩 死海 Copyright ことこ 2009-05-23 23:47:44縦
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