キミが忙しい
ヨルノテガム





  シャボン玉だから忙しい

 十階建ての非常階段の一階ごとにセックスする
 しちゃうから太陽はもう夕日の名刺を配り出している。


  声が忙しい

 ワンワンワンワン
 人間のしがらみは窮屈である。
 繋がれた人間たちよ、ひとりになったとき
 何故 お前は、
 ワンワンワンワン


  普通が忙しい

 ぬいぐるみがマンションを買う
 ぬいぐるみがプールを泳ぐ
 ぬいぐるみだから愛し合う
 そして全く感動的でない


  見るものが忙しい

 サングラスをかける
 暗いサングラスをかける
 赤暗いのをかける
 おっぱいが張っている
 ブラを外して サングラスをかける
 暗いサングラスをかける
 乳頭がレンズ越しに立ちのぼる


  嘘が忙しい

 目を閉じて
 世界が新緑に覆われていく
 雪景色が新緑におおわれていく
 モノトーンの桜が新緑に憎しみ殺される
 あの薄い色はそういうことを教えてくれる
 新緑が世界をおおいつくす


  人形は忙しい

 人が変わっていくので
 それをマネるのに忙しい
 十年後  形が浮き上がって
 五十年後 形は無くなっている
 百年後  形が復元されている


  花は忙しい

 カメラのシャッターフラッシュ。
 夢、感想。
 丁重に感謝するほど怯えていない
 祭りの虚無感、祭りでさえ 発芽できない
 沢山の目に囲まれて 命を何処かに忘れてきてしまった


  太陽が忙しい

 干からびた腕、指、骨
 標識は「一旦 祈れ」
 苦しみが(僕)を使って
(キミ)を殺すかもしれない
(キミ)を使って(僕)を
(僕)を使って(太陽)を
(キミ)が(太陽)を
 忙しく 私は生きるかもしれない
 いつまでも忙しく生き続けるかもしれない
 キミが太陽に見えたときから







 遥か


















自由詩 キミが忙しい Copyright ヨルノテガム 2009-05-23 17:34:16
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