ノート(曇火)
木立 悟




枝から枝へ
したたる雨のむこうに
遠く島が浮かんでいる
曇が海をすぎてゆく
光が枝を照らしている
雨はひと粒ずつ消えてゆく



ゆっくりと目覚めるひとを見つめること
古ぼけた街を横切ること
横切ること 横切ること と つぶやくこと
あけたままずっと忘れていて
すっかり濡れてしまった窓から
午後を横切る雨を見ること



扉がひらかれるたびに路上へ
いくつもの音が流れ出てゆく
水に混じり 海へむかい
やがて島のまわりをめぐり
蒼く蒼く立ちのぼり
もうひとつの街となりきらめいている



空気の昏さが増してゆくとき
たどりつく音もまた増してゆく
波のかたちはどこにでも居て
目覚めゆくひとを撫でている
古ぼけた壁に寄りかかり
空を見るものの背を撫でている



湿り気にかがやく枝の間を
夜の家々は遠去かる
海をはさんでむかいあう壁
蒼と鉛のふたつの街へ
曇のなかの火を映し
雨はひと粒ずつ降り下りる






自由詩 ノート(曇火) Copyright 木立 悟 2004-08-30 00:18:35
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