2020
モリマサ公

川はおびただしい死体の群れでおおいつくされて
おれたちは水に触れること無く向こう岸までたどり着くことができた
あまりにもまぶしすぎて影を無くしたまま
光を失ったコンビニエンスストアーの自動扉を手動で開ける
店内のがらんどうは今映し出されたあたしたちのこころだ

誰かが言った
誰なんだろう
ムスーにのびていく透明の腕たちをかきわけて
斜めになった床の上で慰め合う分またそこに空間が開いて行くようで
何度も目が開き何度もおびえ射精することができないでいる
萎えている性器をうやむやに引き出して日が暮れるまで雑誌を読んだ
ときに声をだして笑い声を立てて

あたしたちは夜目が効く
月の無い空は昨日の豪雨のおかげで星をいくらでも数えることができたし
そのおかげで方角がわかった
北斗七星の方からオーロラがゆっくりやってくるのがみえる
どこにいけばいいんだろう
高速道路がぶら下がり地上には車たちがつきささっている
関東平野を実態を失ったいくつもの歌が横切る
まだ立っているビルのまどのひとつにちいさな明かりがともっていたが
そこはもう場所ではないことを知っていた

次の日も
生存者を誰もが探している
武器が無かったので気配を殺すしかなかった
二階と一階が一緒になってしまったモールの
砕けたショーウィンドーのガラスの上にしゃがみ込んで
彼らの臭いが完全に行ってしまうのを待つ
歪んだ輪郭線がぼやけて肉やオーラがにじんでいる
指をなぶりながら雲の腹をみて確信する
都市的な方向に向かっているのに何も映らないのは
壊滅している証拠だ
僕たちは壊れていない時計を探していた
今何時かわかるだけで僕たちは安心できた
今日があれから何日たったのか知りたかった
爆風で鼓膜がやられたので何も聞こえない
ペンと紙を一番最初に見つけた

生き延びるために
生き延びるために
呟きが海からの風に運ばれてここまでやってくる
実際これは声なんかじゃなかった
皮膚から直接語りかけてくる
ささやき
一人が白目を剥きながらそれに応じて呟きはじめる
生き延びるために

生き延びるために


白鷺が一羽渡って行く
誰も震えてなんかなかった
ただ立ちどまって行く方向を確認していた
吸い込まれるようにそれは消えた

足と腕が自然と動き出す
精神はそれをもう感じない
「水」
あの日
あたしたちは父を無くし
僕たちは動かなくなった母や幼い兄弟を自ら葬り
年老いた予言者が壁に書き連ねた文字を繰り返し

ぐずぐずのアスファルト
浸水した水に浮かぶいくつもの屋根
この風景はおれたちの心を映し出す鏡だ

誰かが言った
誰なんだろう




 


自由詩 2020 Copyright モリマサ公 2009-05-11 12:42:01
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