忘れるとは、刻み込むことだ
あ。

光を認めたときから
歩き始めている

最初の頃は
目に見えるもの全てが
新しくて
眩しくて
喜びに満ち溢れて

時の流れと共に
すっかり見慣れてしまい
踏み出しているこの足は
何歩目かもわからなくなり
次第にこころは
良くも悪くも
ふり幅の大きなものしか
刻み込まないようになる

更に時は流れ
歩いた数だけ
刻むべきものは増える
こころの大きさには
限界があって
刻む場所がなくなると
古傷を覆い隠して
刷り込もうとする

そうやっていつしか
大切であったはずのものが
苦しかったであろうことが
記憶から消えていく

忘れることは幸福だ
疲れ果ててしまうより
手に持てるだけのものを
持ちたいものだけ
楽に抱えたらいい

ぼくたちは
大きなトラックを
一生かけて周回する
ゴールが見えてきた
それはすなわち
スタート地点だ

元いた場所で
身体は朽ち果ててしまい
こころひとつふわりと浮かぶ
最後まで抱えていた
たくさんの刻印が残るものは
一人で楽しむなんて勿体無いから
素敵な傷を見せたいから

空から撒き散らす

その光の中
また誰かが
新しいスタートを切る


自由詩 忘れるとは、刻み込むことだ Copyright あ。 2009-05-08 12:49:31
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