ふるる

湖面にさざ波が立って
透明な魚がうまれた
それは夏の風
開け放した窓に
大群となって飛び込んでくる

君は薄い身体を持つ
果物をひときれ口に入れる
今朝もあまり食べないんだね
病んで君はますます美しい
透明な魚が頬をなでるけれど
君の胸はおとなしいまま

ゆうべ、夢を見たんだよ
君は少し熱が高かったみたい
どんな夢を見たの?
広い広い湖の岸に僕は立っていて
湖面は何故か青白くて
しばらくして炎だと気づくんだ
湖一面の青白い炎
けれど君の乗っているボートだけは燃えていない
僕はそこに行きたいけれど行けない
おそろしい光景だった

そう、とうなづいて君は窓の外を見る
初夏の湖が青いスカーフのように広がっている
透明な魚の群れは
君や僕の体温を奪い
くるりと輪を描いて
空へと逃げてゆく

わたし、似たような夢を見たことがあるの
どんな夢?
わたしはボートに乗っていて
たくさんの青く光る魚がね ボートに押し寄せて
岸に上がらせてくれないの
それで岸にいるあなたの方を見ると
ほっとしたように笑っているの

そう、とうなづいて僕は窓の外を見る
初夏の湖は静まりかえり
部屋に魚の群れを放ち
ぼくらの夢を浸し
取り返しのつかないほど深い青に染めてゆく

君はますます美しく
僕は
触れることもできなくなってゆく


自由詩Copyright ふるる 2009-05-03 12:33:49
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