夜を思い出すために立っていた
梶谷あや子

皮膚の下に
いつも消えない断絶がある
電気が切れて、30分は
花嫁の
夢に用意した砂の中で
炎症している水を「見つけて

逃げてゆく
赤いキャップ、海の貝がら
いま此処には無い
心をきずつけない厚みも
二度と振り返るときに
選ばなかった
片方の靴の上を渡る
静かな食事」
温かな妄想を 夜辺に

遙かな動悸が
あどけない
初夏の空を叩く
飛べるのだとなじる
まなざしさえ
あきらめに、満ち満ちている
初恋の無人に
終わる季節は明るく鮮やかに
まるで未来の中へ

不安の昨日は過ぎ
化石のような
安息が擦り替わる
朝はそれぞれの
信念の輪郭を描き出すのに
倦んだ服の下
呼吸を止めた逃げ水が奔る
選んだ寄る辺だけが、私にある
此処にしか無い私に





自由詩 夜を思い出すために立っていた Copyright 梶谷あや子 2009-05-02 01:28:19
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