降り来る言葉 XLI
木立 悟
眠りかけた猫の横
雨も生もゆうるり過ぎる
階段にだけ残る水滴
たたずむものを映しつづける
明るさのなか
明るさを知らず
光をこぼす光を見つめ
からだの半分が泣きつづけている
鉄と緑
磨耗の空
波は傷に疵に行き交う
暗がりをふくらみを震わせる
きまりのないものに
挑んでは散る
水のかたち
外のかたち
窓の下の窓にこぼれ
捉えられずに消え去るもの
偏る重さを誰が見つめる
橋と氷のはざまに沈む
なぜそんなにも隠しごとが下手なのか
ほんの数歩で忘れながら
ありのままの緑 ありのままの金
なぜおのれの元素をさらすのか
せかしている せかされている
からみつくものは しめつけている
蝋燭の原
未だ点されたこともなくたなびく
岩を灼く陽をついばみ
冬を吐き出す
未完の鳥
凍えるままに立ちつくす
あらゆる成り立ちを見透かされなお
侵略し越境する
そうせざるを得ないほど
内なる歩行を響かせる街
水に沿う森をほどき
逃れられない弦の音を聴く
一度きりの葉を
片耳のために使い果たして
挨拶の途中で
次の雨が来る
厚い紙を裂き
羽を土に刺す
鍵は火 鍵は火
道めぐる声
こらえきれずにあふれる窓
ひらききりひらききり惑いに満ちる
誰もいない港に
雑踏が響く
白くあおむけのかたちのものが
飛びたってゆく
浴びる水は少なくないのに
歩幅はせわしく渇いている
絶たれたまなざしの切断面
どれも等しく三日月をしている
轟々と黄を剥がす火
白へ白へ白へと変わり
どこにもつながらぬ橋のように
流れのなかにたたずんでいる
ひとり熱を帯びていた手が
それ以上に熱い顔をぬぐい
まぶたについた千の傷を
昼の光にかがやかせてゆく
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