The first impression
aidanico

海鳴りが聞こえたら、それをただの空耳だとは済ませずに海のなかを覗いてみるといい。数枚のレンズが折り重なって一つの層を形成しているのがわかるだろう。波紋はそこを潜り抜けるように細密に広がって幾つもの触手のような手を伸ばす。そしてうすい曲面にぶつかり和音を奏で始める。振動は時にレのフラットで、時にはファのシャープで。対向にいる魚は硬い鱗の隙間から僅かな波さえ零さずに受け止めて、自らの体から協演の音色を出す、珊瑚はまた反響した音に身を委ねて食物連らのリズムを添える。そこに或るのが正しく海面を仄かに碧く染める動力源であり、つねに波間をたゆたわせる飛沫。何百年何万年前も昔から、紡がれ続けているオーケストラなのである。それは或いはジャズの重なる不規則なコードの様でいて、或いは一つの音色のブレスまで緻密に構成されたクラッシクの様でもある。いつしか見えるだろう、一本の綱が、旋律が、海底に降りてゆくのを、幾重にもかさなった向こう側に。それは神が愛した音楽のしるしだ、それは感激に涙を流した道筋だ。辿ると良い、あなたの好きなときに、そのまるで完璧で未熟な、優しくつめたい言葉たちを。


自由詩 The first impression Copyright aidanico 2009-04-24 23:19:25
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